U.衛星インターネット事業企画

1.情報スーパーエアライン時代の到来

 昨年来、携帯電話・PHSの爆発的普及に加え、これらのデータ通信対応、カーナビと連動したVICSやモバイル情報サービス、PHS一体型PDA、双方向ポケベル、そして衛星携帯電話(国内)や衛星デジタルテレビといった「空から降ってくる」電波を利用した新サービスが続々登場、「地を這う」通信回線を凌駕する勢いだ。
 今後も複数の周回衛星を使った世界規模の衛星携帯電話や、衛星データ通信など、衛星を利用した新たな放送・通信サービスが目白押し。前者の代表がモトローラの「イリジウム」、後者の代表がビル・ゲイツも出資する「テレデシック」。

 電波が主役の「情報スーパーエアライン」時代の到来である。

 家庭のマルチメディア化のためには、NTTが推進するFTTH(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)による広帯域双方向通信網の整備が不可欠、との幻想が蔓延している。しかし、FTTHで何を実現するのか、どんなニーズがあるのかといった点は深く追求されておらず、相変わらずVOD(ビデオ・オン・デマンド)などが想定されているにすぎない。放送のデジタル化、多チャンネル化が実現すればFTTHのニーズは減少する。
 VODなら、完全な「双方向」回線である必要は全くない。動画を伝送する「下り」回線の容量は大きいにこしたことはないが、リクエストなどの命令信号を流す「上り」回線は大容量は不要。インターネットのホームページを閲覧するケースと同じである。自ら情報発信用のサーバーを備えるようなユーザー以外は、大容量回線を敷設したとしても、「上り」回線は常にスカスカの状態となる。
 したがって、家庭という市場を想定した場合は「上りと下りで容量の異なる非対称的なネットワーク」が現実的である。

 米国で昨年来急速に注目され、すでに商用サービスも始まりつつあるADSL(非対称型デジタル加入者線)技術を使えば、新たに光ファイバーを敷設しなくとも既存の銅線電話線でこれが実現できる。下りは最大毎秒10メガビット程度に対し、上りは640キロビット程度。NTTはADSLには消極的。銅線ケーブルの信号減衰による伝送距離問題や、ISDNとの干渉問題もあるが、FTTHを優先するNTTの思惑も見え隠れする。

 衛星通信が注目されるのは、ADSLと同様、この非対称ネットワークの構築がFTTHよりもはるかに少ない投資で実現できるからである。採算度外視の莫大な公共投資はNTTの野望を満足させる結果に終わるやも知れぬ。

 衛星デジタル放送では、電話回線との接続により、すでに疑似VODがPPV(ペイ・パ・ビュー)番組として実現。ユーザーの急増に加え、動画中継やプッシュ型情報配信の普及で負荷が高まるインターネットの解決策として注目を集めるのが、衛星データ放送や衛星インターネット。NHKも次期放送衛星で実用化を目指すISDB(統合デジタル放送網)で通信回線と連動するリクエスト型のサービスを目指す。固定パラボラアンテナが不要で、走行中の車や携帯端末でも受信可能な新形態の衛星デジタルラジオ放送「ラジビジョン」計画も動き出した。
 衛星以外でも、地上波テレビ電波のすき間を利用するデータ多重放送や、「見えるラジオ」でおなじみのFM文字多重放送、これを利用した有料情報サービス「パパラジーコム」など、電話回線と接続した双方向サービスが提供され始めた。

5〜10年後の家庭におけるマルチメディア環境は、衛星および地上波を「下り」回線として使い、電話回線やISDNを「上り」回線として用いる非対称でハイブリッドなスタイルが、最も現実的。マルチメディアの主役の座を巡り、FTTHとISDB、NTTとNHKの戦いを軸に、マイクロソフト、インテル、NEC、富士通などコンピュータ業界、ソニー、松下など家電業界を巻き込んだ熱き戦いが続く。


次へ

企画書目次へ